その1
血が染め上げた夕陽を見上げ、スザクは哄笑していた。
恐ろしい新兵器、フレイア弾頭を打ってしまった自分が愚かしくてたまらなかった。
(馬鹿だ、最低だ、僕は――ユーフェミア様に、あれほど平和な世の中を作ると誓ったはずなのに……)
たとえルルーシュにかけられた「生きろ」というギアスのためとはいえ、たくさんの人を殺してしまったのは自分。
先ほどニーナには強がりを言ってしまったが、間違いなくスザクはおのれの行動を悔いていた。
このまま死んでしまいたい。
けれど、かけられたギアスは自殺をも許してくれない。
そんな無力な自分がたまらなく滑稽で空しくて、自分で自分を嘲笑った。
そうすることで、どうにか自分を客観視して、生き抜いていこうとしたのだ。
どの道、血まみれの道を歩いていくしかないのだから。
が、やがてそんな強がりも尽きてしまう。
いつのまにか日暮れた廃墟の下、がっくりと膝を落とし、スザクはフレイアによってもたらされた巨大クレーターを見つめていた。
おのれのなしてしまった業を、あらためて思い知らされる。
いつしかぼんやりとスザクは、あの少女のおもかげを追っていた。
(カレン――君になら、僕は殺されても良かったのに……いや、君の手で生命を奪われたかった)
「そんな形でしか、僕たちはもう繋がれないんだから……カレン」
そう独り言をつぶやいた時、ひんやりとした声が答えてきた。
「そこまで彼女を想っていたのか? まるでロミオとジュリエットだな」
「!?」
振り向くと、そこには長髪の美少女が凛然と立っていた。
長い髪。
華奢で、白い肉体。
その姿に、スザクは見覚えがあった。
「c.cっ? なぜ君がここに……」
「答えは期待するな。今、この人格の私がここに存在することは、あの男とて知らぬのだからな」
「あの男っ? ルルーシュのことかっ? 奴は今どこに……」
気色ばんだ途端、額に冷たくてやわらかなものが当てられた。
c.cの手だった。
急に頭がぼんやりして、視界に霞がかかる。目の前にあったクレーターも見えなくなり、体がふぅっと軽くなる。
小さくc.cがつぶやく声が聞こえた。
「やはりあの娘――カレンにいまだ恋慕しているのか。マリアンネめ、シャルルと組んで罪なことをしてくれたものだ。他人の心をおもちゃにして……当人同士はどうなる? 敵味方に分かれてしまった今も、心の奥底ではお互いを愛している二人は?」
おだやかな話しぶりだったが、明らかにc.cはシャルル――ブリタニア皇帝と「マリアンネ」という人物に立腹しているようだった。
(どうして? 彼女と皇帝に何の関係があるのだ?)
今度は何かに抱き上げられた。重くなった瞼を開けると、C.Cが微笑んでいるのが見えた。
「重く、ないのか? 僕が……」
「そんなことをこの期に及んで心配するのか? 他人に対する気遣いは抜群だな、お前は。ルルーシュから聞いていた通りだ。まあ、それが純粋なものかどうかは別の問題だが」
どこまでこの少女は自分のことを知っているのだろう。もしかして父親とのことを言っているのでは……なぜそんなことを。
激しい戸惑いと畏れのために、どうにかあがいてC.Cの手から逃れようとする。が、特に押さえつけられた様子もないのに、体はぴくりとも動かなかった。
混乱状態に陥りそうになった途端、またあの冷たい手が額に当てられ、意識が遠のいてゆく。
目眩に落ちる間際に、C.Cにささやかれた。
「安心しろ。お前とカレンにつかの間の夢を見せてやるだけだ。お前たちが秘めている願いを叶えてやる。そのくらいしてもかまわないだろう、マリアンヌ?」
つづく
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